つくば市の眼科クリニック。つくば橋本眼科です。

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眼内レンズの種類について






 白内障手術の際に使用される眼内レンズは、一般的に単焦点の眼内レンズです。単焦点とは、どこか1点にピントが合うという意味です。そのため単焦点の眼内レンズが入っている眼は、遠方の見え方を重視すると近方はピントが合わないために老眼鏡が必要になります。逆に近方の見え方を重視すると、遠くを見るときには近視用のメガネが必要になります。つまり単焦点眼内レンズの場合は、日常生活上何らかのメガネが必要になってきます。 それに対して、多焦点眼内レンズは遠方と近方の2点もしくは3点にピントが合うように設計されており、メガネへの依存度が大幅に軽減されます。『遠くも近くもできるだけメガネを使いたくない』というニーズにこたえる眼内レンズになります。
 
 しかし、レンズに多数の焦点を持たせることへの代償もあり、 良い点ばかりではありません。 近年の単焦点眼内レンズは収差(光学系において理想的な結像からのズレ)を抑えることによってより良い見え方を追求して参りましたが、多焦点眼内レンズの光学特性は収差を増大させることにつながるため、「遠近両方が見える代わりに画質が落ちる」ということにつながります。神経質な人や完全主義者と言われる性格の人には不向きなレンズと言われています。
 一般論として「高かろう良かろう。安かろう悪かろう。」という先入観がありますが、眼内レンズにおいては必ずしもそのようなことが当てはまりませんので、双方の特性を良く把握したうえでレンズを選択することが大切です。眼鏡をかけることに問題ない方は、自費負担をして多焦点眼内レンズを選択しなくても、保険適応の単焦点眼内レンズで十分満足いただけます。

 多焦点眼内レンズにはいくつかの種類がありますが、ここでは日常臨床で多く用いられている回析型のレンズを主として、単焦点レンズとの比較を簡単に述べてみます。


Ⅰ、2種類の眼内レンズ(多焦点・単焦点)の比較について

 
★多焦点眼内レンズの長所
・遠方と近方のか所もしくは3か所にピントが合うため、メガネの必要性が低くなる。
(ピントが合いにくい距離もある為、眼鏡が完全に不要となる訳ではありません。術後の眼鏡の使用率は、2焦点の眼内レンズにおいて遠方視の場合で12程度、近方視の場合で34程度と報告されています。近くを見るにあたり約1/3の人が何らかの老眼鏡を必要としているというデータ1)です。

★多焦点眼内レンズの短所
・ 選定療養の扱いのため眼内レンズに追加料金がかかる
・ 夜間にハロー(光が散乱する)、グレア(まぶしさ)の自覚が多く、また、コントラスト感度の低下(色の濃淡)が発生しやすい。
・ 順応するのにある程度の時間が必要

*2焦点回折型眼内レンズの場合、階段状の段差を有する回折現象により2か所に焦点が形成され、入射光の41%ずつが
 遠用、近用に分配され残りの18%が回折により失われるため、コントラスト感度の低下が生じやすい。

その他、夜間運転の機会が多い人や、他の眼疾患(緑内障・黄斑変性症・角膜混濁・強い乱視など)がある場合は適応とならない場合が多いです。(職業ドライバーの場合、社内規定により多焦点眼内レンズの挿入を禁止している会社もあります)
 

★多焦点眼内レンズの満足度
 多焦点眼内レンズは、上記の長所短所を十分ご理解いただいた上で手術の施行となりますが、概ね8割の方が「満足」されるものの、1割の方が「期待はずれ」との評価をしています1。高い満足度が得られている反面、「夜間のグレア・ハローが気になる」との意見も約8の人から出るとのデータもあります。多焦点眼内レンズは、夜に車の運転をしなくてはならない環境の方には不向きであり、電車やバスだけで生活が出来るような人に向いていると言われています。

参考文献:
1)臨眼651):71-77, 2011

Ⅱ、2種類の眼内レンズの見え方について


★単焦点眼内レンズの見え方(遠方視の設定:昼間イメージ)
単焦点眼内レンズを使用した場合の見え方の一例です。
遠くの風景や壁掛け絵ははっきり見えますが、手元のメモ紙はぼやけて見えます。このように、遠くにピントを合わせた場合は近くがぼやけます。




★多焦点眼内レンズの見え方(昼間イメージ)
多焦点眼内レンズの場合、遠くの風景と近くのメモ紙の両方にピントが合います。コントラスト感度の低下により、全体の画像のシャープさが低下します(少しかすむ)。

★単焦点眼内レンズの見え方(遠方視の設定:夜間イメージ)
遠くの指標がはっきりと見えますが、車の計器類は少し見えづらいです。


★多焦点眼内レンズの見え方(夜間イメージ)
遠くの指標と車内の計器類は良く見えますが、対向車のライトや街灯の光の散乱によるハローやグレアが気になります。




Ⅲ、多焦点眼内レンズに関わる費用について

 
 当院は保険診療施設ですので、白内障手術・術前術後の検査・診察は通常の保険診療の扱いですが、多焦点眼内レンズでの手術の場合は「選定療養」となるため、通常使用の単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズとの納入差額代金分のみを自己負担費用として患者様へ請求することが厚労省より認められております。

『多焦点眼内レンズを使用する白内障手術』の自己負担費用は、使用する眼内レンズの種類(2焦点・3焦点・乱視矯正機能の有無)によってそれぞれ違って参ります。患者様の眼の状況や見え方の希望によりその適応が異なりますので、レンズの選定をするにあたっては事前に眼の検査(手術前検査の一部)が必要となります。ご希望の方は、当方受診の上、医師にご相談ください。

当院の自己負担費用は以下のごとくです。(1眼手術の金額)

多焦点眼内レンズの販売名

自己負担費用

消費税込

テクニス マルチフォーカル ワンピース  (2焦点)

109,000

テクニス シンフォニー            (焦点深度拡張 EDoF )*

133,000

テクニス シンフォニー トーリック VB  (焦点深度拡張 EDoF+ 乱視矯正)*

159,000

テクニス シナジー VB Simplicity     (連続焦点

243,000

テクニス シナジー TVB Simplicity    (連続焦点+乱視矯正

269,000

アルコン Clareon PanOptix シングルピース (3焦点)

256,000

アルコン Clareon PanOptix トーリック シングルピース (3焦点+乱視矯正)

282,000

*焦点深度拡張EDoFExtended Depth of Focus):焦点を結ぶ範囲が広いレンズのことで、見える範囲を広げる設計ではあるが、近方視力は十分ではない.

Ⅳ、多焦点眼内レンズが不向きな方について

 
 多焦点眼内レンズの長所短所は上記のごとくであり、その評価は個々に分かれるところですが、多焦点眼内レンズは挿入の適応を検討するにあたり注意が必要なケースや非適応の場合があります。学会や論文などでよく挙げられているポイントについて、以下に列挙してみます。

多焦点眼内レンズを挿入するにあたり要注意もしくは非適応と考えられている例

・白内障以外の眼疾患がある方
・眼鏡をかけることを問題視していない方
・多焦点レンズへの期待が過度と思われる方
・繊細な性格や完全主義者の方(術後視力や手術成功率などが気になる方)
・近方を見ることがあまりない方
・精密な近方作業を行うことがある方
・レンズが高価というだけでの選択される方
・多焦点眼内レンズの理解が不十分な方

Ⅴ、良くある質問として(フェムトセカンドレーザー手術について)

 
 多焦点眼内レンズを希望される方から良くある問い合わせ(質問)として、フェムトセカンドレーザーを用いての白内障手術と従来の手術方法(マニュアル法)の成績の違いが挙げられます。フェムトセカンドレーザーでの白内障手術と従来の手術方法とを比較する研究結果は欧米や日本国内からも多く報告されておりますが、手術成績としては(従来の手術法で行うのがトレーニング中の未熟な執刀医でない限り)双方成績に差がなかったとされております。最近の報告では、2022年の米国眼科学会において術後屈折誤差や安全性の比較において双方に差はなかったこと示されており、また、フェムトセカンドレーザーでの手術は費用対効果が低い(費用に見合った効果がない)ことも指摘されております2

 フェムトセカンドレーザーでの手術は、角膜や水晶体前嚢の切開ならびに水晶体核の分割が計画的で正確に行われることが利点と考えられていますが、反面、レーザーでの切断は点(衝撃波による破壊作用)の集合によって組織を切断するという性質上、角膜の切断面は鋭利なメスによる切断に比べ粗雑になることや前嚢切開部の断端は郵便切手のミシン目のように切断されることによって前嚢に亀裂が入りやすくなること、水晶体皮質の吸引が行いづらくなることが指摘されております3,4。また、フェムトセカンドレーザーを用いても、従来からの超音波乳化吸引による水晶体核の処理や水晶体皮質の吸引除去が不要になる訳ではありません。
           図:ミシン目による切断

 フェムトセカンドレーザーは手作業ではできない切片面を作ることができることから、角膜移植の際の角膜切片の切り出しや角膜屈折矯正手術(LASIKなど)の分野では今日高い有用性を発揮しており、今後も期待が持たれる優れた機器ではあります。しかしながら、フェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術は、コストパフォーマンス的(1回の手術で30~40万円)に患者様が得られる利点に見合わないと私は考えますので、当院では現在採用しておりません。

参考文献:
2)Ophthalmology 129:946-954, 2022
3)眼科手術 28(1):45-56, 2015
4)臨眼 74(11,増):170-172, 2020



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